1.はじめに
前回【「司法書士事務所で働きながら試験合格を目指す」のって正直どう?という話(前編)】の記事では、私がポイントだったと思う要素について
(1)勉強時間が確保できていた
(2)毎日のように不動産登記業務に関わることができた を挙げました。
今回はその続きです。
*(3)日々、数多くの外回り業務を割り振ってもらえた
- 市役所などへ書類を提出しにいく(または窓口に証明書等をとりにいく)
- 金融機関に書類を預かりに行く
- 決済立会が完了した司法書士から書類を受け取って申請書・添付書類を組み上げて 法務局に登記申請する
前記(2)と重複しない部分で、かつ「受験生補助者」の目線からみたときに、これらの外回り業務特有の「良いところ」が何かというと、それは事務所の外での待ち時間や移動時間が発生するところです。これに尽きます。
朝の出勤前や昼休み、夕方の退勤後や休日というまとまった時間の勉強ももちろん大切ですが、結構「暗記もの」も多い試験ですので、いわゆる「すきま時間」も有効に活用したいところです。
同じ補助者(事務スタッフ)としての雇用契約でも、割り振られた業務内容がデスクワークばかりであれば、正直、勤務時間中にすきま時間というのはほとんど発生しません。
発生しているとすれば、それは先輩や上席から「勤務時間中に仕事以外のことをやっている」と叱責されてしかるべき状態といえます。普段使っている書式や保管データなどの整理、所内の掃除、備品の整理など、他に事務所のためにやれること、やるべきことがあるわけですからね。
これに対して、外回り業務では必然的に事務所の外での待ち時間や移動時間が発生します。そして、この時間を活用してできる他の業務というのは基本的にないと思われます。
しかも、この時間が結構長いんですよね。足していくと、一日のうち結構な割合を占めます。
そんなわけで、私はこのすきま時間にフィットするように、「過去問や模試などの択一の問題をバラバラにして一問一答形式にしたもの」をデータ化し、そのデータをスマホに取り込んで、暇さえあれば解いていました。(ちなみに、これにはEvernoteというアプリを活用していました。)
一問一答形式の問題を解くという「すきま時間勉強」は、やろうと思えばいつでもできます。(デスクワーク中も、作業の合間などには…ごにょごにょ)
でも予備校の冊子などはさすがに仕事中堂々と見づらいですし、なにより冊子の問題集だと「この知識は完全に頭に入っているから何回やっても正解できる」という肢と、「この知識は曖昧で迷ったり間違えたりする」という肢の切り分けができない(曖昧なところや苦手なところの肢をソートして重点的に解くことができない)といった不便さがあるため、私には結果的に上記のやり方が合っていたのだと思います。
ちなみに、知識が曖昧だと、解いていて「あれ?これってなんでこういう結論になるんだっけ?」などと疑問が生じることがあるんですが、そういうときの対応(調べもの)も、(他の職場に比べると)司法書士事務所勤務のほうが格段にやりやすいですね。司法書士事務所の中で民法の条文とか引いていても、目立ちませんからね。(笑)
これ以上は怒られそうなので、このくらいにとどめておきます。
*(4)周りの人(先輩、上司)に恵まれていた
順番的に最後に書くことにしましたが、これも今思えば非常に大きな要素だったように思います。勤務していた事務所には、尊敬できる先輩や上司が多数おられ、「早くこの人たちと肩を並べたい」という気持ちがモチベーションアップにつながったことは否定できません。
これが「なんだこの人たちは、司法書士ってこんな人たちの集まりなのか?」と思ってしまうような事務所だったら、少なくとも「早くこの人たちと肩を並べたい」という気持ちがモチベーションに…ということはなかったでしょう(その場合、さっさと受かってこんな事務所今すぐ辞めて独立してやる、というような反骨精神的なモチベーションにはなったかもしれませんが)。
私は司法書士事務所で働き始めるまで、(予備校講師の先生を除くと)司法書士の「実物」も見たことがありませんでしたので、最初に見る「親鳥」には恵まれたと思っています。
先輩司法書士からは、受験や業務に関してたくさんのアドバイスをいただきました。その節はありがとうございました。(ちなみに、いっしん司法書士事務所を共同運営している司法書士の髙田も、同事務所の先輩司法書士に当たりますので、不思議な縁を感じます。)
4.反対に、デメリットはあるのか
最後に、デメリットについて検討したいと思います。
まず、試験対策上のデメリットについてですが、個人的にはあまり思いつきません。
「試験と実務は違うから、実務の知識がかえって試験で邪魔になることがある」というような意見を見たことがありますが、個人的には、試験で邪魔になる実務の知識って別にないというか、そんなものはどうとでも対応できると思います。
「試験で邪魔になる実務の知識」があるとすれば、登録免許税の軽減税率ぐらいでしょうか(実務上は軽減税率の適用を検討すべき場合でも、試験問題では軽減税率は考慮しないようにとの注意書きがあることが多いです)。
反対に、「実務やってる人には簡単に解ける問題だな」みたいな問題が出ることはたまにある、というのが実感です。たとえば、「登記識別情報の不通知・未失効照会制度」などは、試験対策として勉強しているときは「この有効証明と不失効と未失効の違いはなんやねん」と、いまいち理解ができておらず記憶にも定着しづらかったのですが、実務で触れることで「ああ、あれね」と腹落ちしたのを覚えています。
もちろん、ものすごく忙しい事務所に就職すると勉強時間の確保が難しくなる、というようなことはあるでしょうが、別にそれは司法書士事務所に就職することそれ自体のデメリットではないのでここでは考慮しません。
いざ就職してみたら、まともに昼休憩すらとらせてもらえないブラック事務所だった!みたいなこともあるかもしれませんが、それもまあどこの業種でも起こり得る話ではあります。
ちなみに傾向として、不動産登記業務がメインの事務所は、日中の業務が「午前中に決済立会~午後に登記申請」という感じになることが多く、その関係上、昼休憩を決まった時間にとれないことが多いのではないかと思われます。
なお、このような場合に、たとえば月曜日にスケジュールが過密で昼休憩をきっちり1時間とることができなかったとして、その帳尻を合わせるために、その週の火~金のどこかで気持ち長めに休憩をとる、というようなことが事実上許容されるかどうかは、事務所によるものと思われます。
なお、経験上、司法書士事務所で働きながらの受験ならではの「嫌だったこと」も一応あります。何かというと、不合格だったときにその報告をしなければならないことです。
事務所内の先輩・上司の多くが司法書士試験の経験者であるため、その年の合格発表の日程や発表の時間帯などを(だいたい)把握しています。そして、誰が今年の試験を受験したのか、ということも(特に管理職の方などは)当然把握しています。
そのため、不合格だった場合は、事務所に帰ってその報告をしなければならないのですが、これが非常に気まずいのです。(私はこれを2回経験しました。)自分が不合格だった年に合格した同僚の方がいたり、その年に合格した自分より若い方が新人資格者として事務所に入られたりすると、複雑な感情になることもあるでしょう。
まあでもその分、合格した時はめちゃくちゃお祝いしてもらえます(たぶん)。
5.まとめ
思いがけず前後編にわたる長編になってしまいましたが、「司法書士事務所で働きながら合格を目指すのって正直どう?」という問いに対する私の個人的な回答としては、「いくつかの条件を満たしていれば、わりとおすすめ」といったところでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
司法書士 杉原佑典
≫≫≫R5年7月、本試験直後の過ごし方についても綴りました。記事はこちら↓ 【雑談】司法書士試験 本試験直後の過ごし方