司法書士事務所で働きながら試験合格を目指すのって正直どう?という話(前編)

【雑談】「司法書士事務所で働きながら試験合格を目指す」のって正直どう?という話(前編)

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司法書士事務所で働きながら試験合格を目指すのって正直どう?という話(前編)

1.はじめに


 司法書士試験の受験生をある程度長い期間続けていると、「司法書士事務所で働きながら合格を目指したほうがいいのかな?」という考えが頭に浮かぶことがあります。

 「あります」、と言い切ってしまいましたが、少なくとも私はありました。

 ただ、業界内でいろいろな方と話をしていると、これはある程度司法書士受験生に普遍的な現象のように思われます。実際に行動に移すかどうかはともかく、選択肢の一つとして検討したことがある方は多いのではないでしょうか。

 なお、試験対策上のことだけでなく、合格後スムーズに実務に入っていけるという観点からも、検討する余地は大いにあるように思われます。

 今回はこの点について、私の考えをざっくばらんに書いてみたいと思います。


2.私の司法書士試験受験歴


 さて、上記について私見を述べる前に、私の受験歴を書いておきます。

  私は、大学在学中に司法書士試験の勉強を始めました。

 今思えば思い上がりも甚だしいのですが、試験勉強を始めた当時、正直「一発合格は難しくても、2~3年くらい勉強すれば受かるだろう」と思っていました。

 大学では法学部に在学しており、司法書士試験の科目(民法、会社法など)はもともと興味のある分野でした。また、大学受験のための勉強でも「暗記もの」の分野(日本史など)は得意分野でしたので、司法書士試験の試験勉強自体は非常に楽しいものでした。

 そのため、だいたいそのくらいの頃には自然と合格という結果が手に入るだろうと考えていたのです。合格率は〇%、というような数字も目にしてはいましたが、最初は周りの受験生のレベル(いわゆる「合格レベル」の受験生の層の厚さ)もわかっておらず、正直どれくらい難関なのかよくわからないな、という感覚でした。

 それまでの人生における高校受験・大学受験では、もともとの成績で合格できそうなところを選んで受験していましたし、こう言っては何ですが、大した挫折を経験したことがなかったといえます。それも影響したのかもしれません。

 ところが、3回目の試験でも足切りに終わってしまい、翌年の4回目の試験でも大した手応えを得られませんでした(自己採点の結果も微妙でした)。

 ちなみにこの頃の私は正真正銘のフリーターであり、いわば「大卒の新卒カード」をどの企業にも切ることなく、自ら破り捨てていたという状況でした。(これが許されていた環境というのは非常にありがたいものでした。)

 さて、そのあたりに至り、私はようやく「このままでは5回目の試験でも結果は出ないな・・・」という焦りを強く感じはじめました。

 そこで私は、環境を変えるため、4回目の試験の合格発表を前に、司法書士事務所の補助者(事務スタッフ)の求人に応募することにしました。

 ダメ元での応募でしたが、縁あって神戸市内の大手司法書士法人に採用していただき、そこからは平日日中は事務所での仕事、平日夜と土日は自宅で勉強、という日々になりました。

 その後、4回目の試験の結果は予想通り不合格で、その翌年も総合合格点に1.5点届かず、不合格となってしまいました。(ちなみに、択一式試験(マークシート)の配点は1問につき3点です。)

 そして事務所で働き始めてから2年と少し経った頃、通算6回目の受験でようやく総合合格点を超えることができました。


3.「補助者経験」のメリット


 話を戻します。「司法書士事務所で働く」ことは、試験対策という点から見てプラスにはたらくものでしょうか。 

 これについては賛否両論あると思います。

 実際、この点について比較的多くの方が「必ずしもプラスにはたらかないと考える」と書いた文章を何度か読んだことがあります。

 それでも私の考え(「私の場合はこうだった」という個人的経験)を述べさせていただきますと、私にとって司法書士事務所での勤務経験は、合格にたどり着くうえで大いにプラスにはたらくものでした

 もちろん、個人的経験に基づく私見ですので、再現性があるかといわれるとそれはわかりません。ただ、一応「こういう点が良い要素としてあったのではないか」と思う点はいくつかありますので、以下、それを挙げてみたいと思います。


*(1)勉強時間が確保できていた


 通常、試験合格のためには勉強時間をある程度確保する必要があります。

 ネットで検索すると「司法書士試験の合格までに必要な勉強時間は通算で約3,000時間」などという情報が出てきますが、これについては正直よくわかりません(誰がどのように数えるんでしょうね)。

 私の場合は当時、月~金の9:00~18:00、いわゆるフルタイムパートでの勤務でした。基本的に残業なしで、休日出勤もありません。

 独身で扶養すべき家族もおらず、自分以外のことにリソースを割かなくていい状況だったからこそできた働き方ではありますが、やはり業務時間以外の時間、すなわち「出勤前の時間」「昼休み」「退勤後の時間」「休日」に、それぞれ仕事に関することを完全にシャットアウトすることができる(事務所の人や関係先から連絡がこない、抱えている案件のことで悩まない)ような働き方、というのは重要ではないかと思います。

 私の場合は、もし当時から正社員として雇用され、担当先をもつような勤務形態をとっていたら、勉強時間の確保は厳しかったと思います。

 実際、合格後に同じ事務所で正社員(司法書士)として数年間働きましたが、休みの日でも仕事用スマホが鳴れば出る、プライベートの時間でも期限が迫っている案件のことがふと気になる、対応が悩ましい案件について休みの日に考え込んでしまう…というような感じで、私は仕事とプライベートを上手に切り離すことができない人間でした。(別に強制されていたわけではありません。私の性格上、気になるので処理してしまわないと落ち着かないという感じでした。)

 ちなみに私は司法書士事務所で働きながら試験勉強をしていた頃、昼休みはほぼ毎日、事務所近くのエクセルシオールカフェで過ごしていました。

 別に事務所のデスクで昼休みを過ごすこと自体はなんら妨げられておらず、昼食をとることも含めて昼休憩をまるまる事務所のデスクで過ごしても良かったですし、そのほうが経済的ではあったのですが、とにかく事務所の固定電話にかかってくる電話に出たくなかったというのがその理由です(たとえ昼休憩中でも、デスクにいながら鳴り続ける電話を無視するというのはなかなか難しいものですよね)。

 余談ですが、今でもコーヒーショップの中ではエクセルシオールカフェを好んで利用します。その節は大変お世話になりました。


*(2)毎日のように不動産登記業務に関わることができた


 一口に司法書士事務所といっても、取扱業務は多岐にわたります。

 私が勤務していた事務所のように、登記業務(特に不動産登記業務)が中心の事務所もあれば、主に債務整理などを扱う事務所、成年後見に注力している事務所、商業登記・会社法務・スタートアップ支援などを得意としている事務所など、カラーは様々です。

 やはり「実際の案件に触れられる」というのが一番大きな要素だと思いますので、単に補助者(事務スタッフ)として働くというだけではなく、その事務所でどのような業務に関わることができるのか、ということが大事になってきます。

  私の場合は、不動産登記(決済)業務のうちの定型的・事務的作業の部分(返却書類の準備作業や申請書に添付書類を組んでいく作業など)を主に担当していました。

 不動産登記法などを勉強して得た知識が活きる仕事ではありましたが、さほど高度な知識やスキルが要求されるようなことはありませんでした。それでも、とにかく毎日実物の案件、実物の登記事項証明書その他の登記書類に触れることができたのは幸運でした。(ちなみにこれは「後から思えばそうだ」という話であって、別に求人に応募するときに「登記業務に関われるか」なんてことを確認したりはしませんでした。)

 私は、司法書士事務所で働き始めるまでは、登記事項証明書すら実物をこの目で見たことがなく、資格予備校のテキストにサンプルとして載っているものが、当時の私にとっての登記事項証明書でした。他の証明書や法的書面についても同様です。

 不動産登記・商業登記の記述式試験問題では、模擬的に作成・掲載された「登記事項証明書」などの(架空の)書面が「別紙」として大量に示され、その「別紙」や「事実関係」の中に目を通すと、「THE・架空人物」という感じの名前の人が何人も登場し、受験生を翻弄してきます。

 当時の私としては、試験問題はいくら読んでも「THE・架空事例」でしかなく、事実関係などを読み込んでもいまいち具体的なイメージがわきませんでした。解いている最中は、登場人物がいったい何をやろうとしているのか、その背景がよく理解できないし、解いた後復習をしていても、どういう事例だったか頭に入っていないので思い出せない、という残念な状態でした。 

 この点について、補助者(事務スタッフ)として働き、実務に触れたことで、「頭の中の霧が晴れて視界がクリアになりました!」などと大げさなことを言うつもりはありません。

ただ、格段にイメージがしやすくなり、とっつきにくさ、抵抗感が多少薄れたな、というのは実感としてあります。

 なお、記述式試験だけでなく、択一式試験対策上も、それまで「正直どういうものなのかさっぱりわからない」と思っていたいくつかの用語や制度(たとえば、登記識別情報の不通知・未失効照会)について、実物を見たことで「ああ、こういうものか」と理解でき、地に足の着いた学習ができた、と思うことは少なくありませんでした。

 ちなみに、補助者(事務スタッフ)時代は商業登記案件に関わることがほとんどなかったので、商業登記については正直最後まで苦手意識はありました。

 しかし、合格後に関わってみると商業登記は非常に奥深く、今では好きな業務分野です。いつか胸を張って「商業登記のことならなんでも聞いてください」と言えるよう、研鑽を積んでいきたいと思います。

 …分量が多くなってしまいました。

 次回はこの続きから書きたいと思います。また次回、よろしくお願いします。

司法書士 杉原佑典


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【雑談】「司法書士事務所で働きながら試験合格を目指す」のって正直どう?という話(後編)

≫≫≫R5年7月、本試験直後の過ごし方についても綴りました。記事はこちら↓

【雑談】司法書士試験 本試験直後の過ごし方

執筆・監修
司法書士 杉原佑典

司法書士 杉原 佑典

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