「戸籍謄本は本籍地の市役所で」の制度が変わります

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「戸籍謄本は本籍地の市役所で」の制度が変わります

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1.はじめに

 不動産・預貯金などの財産をお持ちの方がお亡くなりになった場合、その相続人となる方は、相続手続(不動産の名義変更や預貯金の解約等の手続)を進めるために、まず戸籍収集を行うことになります。

 相続手続では、お亡くなりになられた方の出生から死亡までの戸籍を間断なくそろえる必要がある、ということはご存じの方も多いのではないでしょうか。(このほか、相続人となる方の現在の戸籍謄本なども一式そろえることで、相続人の範囲を確定させる必要があります。)

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2.従来からの「戸籍の集め方」

 さて、私たちは普段、住民票を取得するときは住所地の市区町村役場(以下、「市役所」といいます)の窓口に行きます。

 同じように、戸籍謄本を取得するときは、本籍地の市役所の窓口に行きます。(住所地と本籍が同じ市区町村である場合には、同じ市役所で住民票も戸籍謄本も取得できます。)

 反対に、本籍地以外の市役所に行っても戸籍謄本(現在の情報が記載されている戸籍謄本)は取得できません。

※ 住民票については、【広域交付】という仕組みにより、住所地以外の市役所の窓口でも取得できる場合があります。ただし、取得する際の必要書類や、記載される事項が「住所地で取得する住民票」と「広域交付住民票」とでは異なりますので、用途や提出先に応じた注意が必要です。


〔注〕コンビニのキオスク端末(マルチコピー機)で取得することができる「コンビニ交付」の住民票については、基本的に全国どこの市区町村でも証明書の交付を受けることができます。(なお、戸籍謄本についてはコンビニ交付未対応の自治体が存在するなど、例外もあります。弊所がある兵庫県明石市も、令和5年1月現在、戸籍謄本のコンビニ交付は未対応です。)
 コンビニ交付の証明書や住民票の広域交付については、また別の記事にまとめて掲載する予定ですので、この記事では「市役所で取得する(コンビニ交付でない)戸籍謄本等」の話をしているものと思って読み進めていただけると幸いです。


 この「戸籍謄本は本籍地の市役所でないと取得できない」という決まり(制度)は、戸籍のデータを管理しているのが本籍地の市役所である以上やむを得ないものではありましたが、相続のための戸籍収集の場面では、国民にそれなりの負担を強いるものでした。

 司法書士は、不動産の相続登記手続などのご依頼を受けて、ご依頼者の代わりに戸籍収集を行う機会が多々あります。

 私もこれまでに何度となく戸籍収集業務を行ってきましたが、実感として、お生まれからお亡くなりまでの全ての戸籍が1か所の市役所で揃う方というのはさほど多くはありません。

 おそらく、生まれてから結婚するまで(父母の戸籍に在籍していた頃)と、結婚して新たに自分たち夫婦の戸籍が編製された以降とで1回本籍地(を管轄する市役所)が変わっているという方がかなりの割合を占めるのではないかと思います。

 ただ、100人いれば100通りの人生があるわけで、中には転勤や転職を繰り返す中で住所を移すたびに本籍も移していたという方もおられますし、結婚・離婚・縁組などを複数回ご経験されて、戸籍を転々として本籍地が何回も変わっているという方も決して珍しくはありません。

 このように、本籍地が複数回変更されている方の戸籍を集めるときは、まず亡くなった時点の本籍地を管轄するA市役所から戸籍謄本等を取り寄せて、取り寄せた戸籍謄本等を読み解き、その1つ前の本籍地の管轄市役所をB市役所と特定し、B市役所から戸籍を取り寄せて…というふうな作業が必要となります。

 この作業は、慣れていない方だとかなりの負担(手間)を感じることと思います。平たく言えば、とても面倒くさいということです。

 なお、戸籍収集を司法書士にお任せいただく場合でも、複数の市役所に順番に請求していくという手順は変わりませんので、郵便の往復日数なども考慮すると、どうしてもそれなりの時間はかかってしまうものでした。






3.新しい制度で「戸籍の集め方」が変わる

さて、このように国民にとって負担の大きかった戸籍収集の作業ですが、今般、戸籍法が改正され、一定の範囲の戸籍謄本等については、本籍地以外の市役所の窓口でも(つまり、全国どこの市役所の窓口でも)取得できるという新制度・新システムが導入されることになりました(新戸籍法第120条の2)。

これ自体は非常に画期的なことであり、今後、相続人による戸籍収集の負担は確実に軽減されることになります。

 ただし、「一定の範囲の」とあるように、相続手続で必要となる戸籍謄本等の全部が必ずしも最寄りの市役所窓口で揃うとは限らないということに留意する必要があります(相続関係によっては、最寄りの市役所窓口で全部揃うということもあり得ます)。

 また、後述するとおり、「本人等が窓口に行く方法」に限って認められるという点にも注意が必要です。






4.新制度の前提となる新システム

戸籍には、正本と副本を設けるものとされており(戸籍法8条1項)、正本は本籍地の市役所に、副本は管轄の法務局に保存されるものと定められています(同条2項)。

 令和5年1月現在、日本国内の全ての自治体で戸籍のコンピュータ化が完了しています。

 そのため、個人的にはいまいち「正本」「副本」のイメージがつきにくいなと感じるところではありますが(コンピュータ化の戸籍についてもこの「正本」「副本」という概念が用いられています)、要するに元となる戸籍データは各市役所のサーバーなどに保存され、そのバックアップを法務省のサーバーで管理しているされるということだと理解すればよいでしょう。

 新制度は、この法務省のサーバーに保管されている「副本」の管理システムを全国の自治体とネットワークでつなぎ、全国どこの市役所からでもアクセスできるという新システムを前提としたものです。

参照:戸籍法の一部を改正する法律について(法務省ウェブサイト)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html






5.新制度の注意点

現時点で判明している新制度(新システム)の注意点をまとめると下記のとおりです。

⑴ 改正法の施行日(新システムの運用開始日)は

 上記の新制度(新システム)の運用は、改正戸籍法の公布日(令和元年5月31日)から5年以内にスタートするということは決まっていますが、具体的な日付は本記事執筆時点(令和5年1月14日時点)で未定です。なお、前掲リンク先(法務省のウェブサイト)の資料に「新たな制度の運用は,令和5年度中の開始を予定しています」と書かれています。(また具体的な施行日が決まればこの記事も更新します。)

 新システムの運用開始日について、法務省より令和6年3月1日からと発表されました。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html

 「戸籍証明書等の広域交付」との名称が用いられています(上記リンク先参照)。

 「広域交付」という新制度の運用がスタートするまでは、従来通りのやり方で本籍地の市役所から戸籍謄本を取り寄せていくことになりますが、令和6年3月1日以降は、広域交付制度が始まっていることを念頭に、必要書類などを案内することになるでしょう。

 

⑵ 「全国どこの市役所の窓口でも取得できる」戸籍謄本等の範囲は

下記の通りです(改正戸籍法120条の2第1項)。

(窓口で請求する人から見て)

① 本人の戸籍謄本等

② 配偶者の戸籍謄本等

③ 直系尊属(父母・祖父母など)の戸籍謄本等

④ 直系卑属(子・孫など)の戸籍謄本等 

〔注〕上記の「戸籍謄本等」には、現在戸籍(その人の現在の情報が載っている戸籍)の謄抄本のほか、除籍・原戸籍(その人の過去の情報が載っている戸籍 /その人が過去に在籍していた戸籍)の謄抄本が含まれます。

 反対に、下記の戸籍謄本等は、相続関係によっては収集の対象となりますが、「全国どこの市役所の窓口でも」という新制度の対象からは外れています。

(窓口で請求する人から見て)

① 兄弟姉妹の戸籍謄本等

② おじ・おばの戸籍謄本等

⑶ 郵送での請求の場合は

 新制度は、一定の範囲の戸籍を全国どこの市役所「の窓口」でも取得できるようになるというものです。

つまり、郵送請求については、従来通り本籍地の市役所に対してしかすることができません(改正戸籍法120条の2第2項)。この点には注意が必要です。

⑷ 代理での請求は

まず前提として、戸籍謄本等の請求は、窓口に委任状を持参(郵送請求の場合は委任状を同封)すれば、代理人でも行うことができます。

 従来通りに本籍地の市役所で戸籍謄本等を請求する場合は、本人が窓口に出向いた場合に請求できる戸籍謄本等の範囲と、代理人が窓口に出向いた場合に請求できる戸籍謄本等の範囲に違いはありません(本人が請求できる戸籍謄本等は代理人も請求できます)。

 他方で、新制度による「本籍地以外の市役所での請求」の場合には、代理人による請求は認められません(改製戸籍法120条の2第2項)。この点にも注意が必要です。

⑸ 司法書士の職務上請求の場合は

 我々司法書士には、上記⑷で触れたような一般的な代理請求(委任状での請求)の方法のほかに「職務上請求」という特別な請求方法が認められています(戸籍法10条の2第3項、第4項)。

詳細は割愛しますが、委任状での請求の場合と異なり、職務上請求の方法を用いた場合の方がより効率的に戸籍収集を行うことができます。そのため、司法書士が相続登記手続などのご依頼を受けて戸籍収集を行う場合には、この職務上請求の方法によるのが一般的です。

 そこで、司法書士の職務上請求についても新制度の適用はあるのかという疑問が生じたのですが、結論としてはこれも認められません

新戸籍法第120条の2[指定市町村長への謄本等請求]

1 第119条の規定により戸籍又は除かれた戸籍が磁気ディスクをもつて調製されているときは、第10条第1項(括弧内省略)の請求は、いずれの指定市町村長(第118条第1項の規定による指定を受けている市町村長をいう。以下同じ。)に対してもすることができる。

2 前項の規定によりする第10条第1項の請求(本籍地の市町村長以外の指定市町村長に対してするものに限る。)については、同条第3項及び第10条の3第2項の規定は適用せず、同条第1項中「現に請求の任に当たつている者」とあり、及び「当該請求の任に当たつている者」とあるのは、「当該請求をする者」とする。 

 上記の通り、新制度を定めた改正戸籍法120条の2は、「第10条第1項の請求」についてのみ適用があることが分かります(改正戸籍法120条第1項)。

 この「第10条第1項の請求」というのは「本人またはその配偶者、直系尊属もしくは直系卑属」がする戸籍謄本等の請求のことで「本人等請求」と呼ばれるものです。

 これに対して、上記に該当しない親族(兄弟姉妹、おじ・おばなど)の戸籍謄本を相続手続等のために請求する場合や、親族関係にない第三者(債権者など)が自己の権利行使など(裁判手続など)のために請求する場合、また、司法書士などの士業が業務遂行上必要な戸籍謄本等の職務上請求を行う場合のことを総じて「第三者請求」と呼びます。

改正戸籍法には、上記の第120条の2以外に「戸籍謄本等の請求を本籍地以外の市町村長に対してすることができる」旨の規定は存在しませんので、新制度は「本人等請求かつ窓口請求の場合」のみを対象としたものといえます。 

 ここまでの内容を整理すると、下記の表のようになります。

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 新制度は、従前その戸籍情報にアクセスできなかった行政機関からのアクセスを認め、その情報を(当該行政機関を通じて)請求者に開示するというものです。

そのため、その対象を「本人等請求かつ窓口請求の場合」に限っているのは

・個人情報保護の観点からより慎重な対応が求められる

・一部の市役所に負担が集中するのを防ぐ必要がある といった趣旨に出たものと思われます。

 なお、私個人としては、司法書士などの専門職による職務上請求に関しては、新制度の対象に含めてもよいのではないかと感じるところではあります。


※ なお、新制度による本籍地以外の市役所における戸籍謄本等の請求の際は、「マイナンバーカードや運転免許証等により適切に本人確認」を行うものとされており、これも上記と趣旨を同じくするものと思われます。
(本籍地の市役所で請求する際は、保険証などの顔写真のない身分証明書しか持っていない方でも、2点組み合わせれば本人確認書類として足りるという取扱いがされています(戸籍法施行規則第11条の2)。)






6.今後の相続手続(相続業務)はどう変わるのか

冒頭で述べたとおり、従来の制度の下では、戸籍謄本等は本籍地の市役所に対してのみ請求することができました。

そのため、戸籍収集を相続人の方がご自身でされるにせよ司法書士に委任されるにせよ、「どこの市役所に何を請求するか」という手順や工数、戸籍収集にかかる実費(市役所に納める手数料以外にも、郵送請求の場合には往復の郵送費や定額小為替の手数料がかかります。)については基本的に差が生じないところでした。

 しかし、新制度がスタートした後は、ご依頼者の方に一度最寄りの市役所にご足労いただくことで、相続手続に必要な戸籍が相当程度揃うことが想定されます。

(この場合、従来通りの方法で本籍地の各市役所に請求した場合と比べ、少なくとも郵送実費の節約が可能となります。)

新制度がスタートした後の相続業務では、事案にもよりますが、戸籍収集のスピードアップとコストダウンの観点から、下記のようなご提案がスタンダードになっていくのかな、と想像しています。

【ご提案】

⑴ ご依頼者の方(相続人)に最寄りの市役所で取得できる戸籍を集めていただく。

⑵ 上記⑴を前提に、

① 残りもご自身で集めていただくか、

② 足りない分の取得を司法書士に委任するか を選択していただく。


 もちろん、お仕事の都合で平日に市役所に行く時間がとれない方や、健康上の理由などで市役所までの移動が負担となる方などについては、戸籍収集をすべて司法書士にお任せいただくという従来通りのご提案を差し上げて、ご検討いただくことになるでしょう。

 また、新制度については市役所などからも積極的なアナウンスが行われるとよいなと考えています。

 相続人の方は、被相続人がお亡くなりになったことに伴う各種行政手続のために(何度か)市役所に行かれた後で、相続手続のご相談に来られることがほとんどです。

 このときに、市役所の方から「被相続人の死亡の記載のある戸籍だけでなく、出生~死亡の戸籍を一式とっておくと後の手続で必要になった時に便利ですよ。それらの戸籍も、この窓口でとれますよ」といったアナウンスをしてもらえるようになれば、先ほどの【ご提案】の⑴の部分は既に終わっている状態で専門家にバトンタッチすることができますので、相続人の方の負担は相当程度軽減されるのではないでしょうか。

 いずれにしてもまだスタートしていない制度ですので、今後の運用に関する情報などを注視していきながら、また必要に応じて情報提供させていただければと思います。

 

司法書士 杉原佑典

執筆・監修
司法書士 杉原佑典

司法書士 杉原 佑典

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