
1.はじめに
先日、知人から一人株式会社(注:ここで、一人株式会社とは、唯一の株主が取締役兼代表取締役であり、他に取締役等の役員がいない会社のことを言います。つまり、株主と会社の役員が一人だけの株式会社を意味します。なお、この言葉は法律用語ではありません)を経営している社長のことで相談がありました。以下、個人が特定されないように内容を変更して記載します。
お元気だった一人株式会社の社長がある日突然倒れ、入院しました。意識はなく、医師から余命3ヶ月と告げられたそうです。社長の一人息子は、その会社の経営に全く関与しておらず、会社を継ぐつもりもありません。他方、その会社には、会社名義の負債があるとのことでした。
今年は、団塊の世代の約7割が後期高齢者(75歳以上)になる年だそうです。今後、こういったケースが増えるだろうなと思ったことから、以下、気付いた点をまとめてみたいと思います。
2.会社と個人は別人格だから問題ない?
(ⅰ)会社の株式が相続の対象になる
前提として、法律上、会社と個人(自然人)は別人格とされているため、個人が有する権利や義務は会社に影響を及ぼしません。逆もまた然りです。今回のケースも会社と個人は別人格だから、仮に個人である社長が死亡した場合でも、会社の財産や負債は相続の対象ではないと思われる方もいるかもしれません。確かに、社長が株主でなければ、その会社の役員が交代するだけで相続の問題は生じません。しかし、今回は社長が唯一の株主(実際こういう会社は多いです)でもあるため、社長が有していた会社の株式が相続の対象になります。株式を相続すると、相続人はその会社の所有者(オーナー)になりますので、新たに役員を選任し、その会社をどうするのか(継続するのか否か)を決定しなければなりません。
(ⅱ)会社を破産させてもリスクはある
今回は、会社名義の負債があるので、継続する場合にはこの負債をどうするのかが重要な問題になります。会社の資産を売却して負債の整理ができるならよいのですが、明らかに資産より負債の方が多い場合には、会社の破産を検討されると思います。但し、この場合でも会社名義の負債につき、社長の自宅に抵当権等の担保が設定されている場合には要注意です(実際、一人株式会社が事業資金等の融資を受ける場合には、社長の自宅に担保を設定することを求められたり、連帯保証人を求められることがあります)。会社が破産しても自宅に設定された担保は消えませんので、会社が破産すると、自宅が競売(もしくは任意売却)されることになります。一人息子が社長と同居していた場合、その息子は自宅から出ていかなければなりません。 また、会社名義の負債に連帯保証人がいる場合、会社が破産しても、担保と同様、その連帯保証人の支払義務も消えません。通常、こういったケースでは会社と一緒にその連帯保証人も破産することが多いため、一人息子が連帯保証人になっていた場合には、その息子も会社と一緒に破産することになります。 まとめると、会社が破産しても担保がついていたり連帯保証人がいた場合には、リスクが残ることになります。
(ⅲ)相続放棄すればよい?
こういったケースで相続放棄を検討される方もいると思います。 しかし、一人息子が連帯保証人になっていた場合、連帯保証債務はその息子個人の債務であるため、相続放棄してもその息子の支払い義務は残ります。この場合、相続放棄をするだけでは、正直あまり意味がありません。
3.一人株式会社にも「終活」が必要
近時、「終活」という言葉は、ある程度一般的な用語として浸透してきたと思います。但し、ここでいう「終活」とは、あくまでも個人名義の財産や個人の身の回りの整理のことを意味しています。
他方、上述のとおり、一人株式会社の社長にとっては、社長に不測の事態が生じた時のために、個人だけではなく会社の「終活」も必要だということを強く感じました。
私自身、最近、一人株式会社の社長になりましたので、家族に迷惑をかけないよう元気な間に会社の「終活」もやっておかなければならないなと強く思いました。
司法書士 髙田
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